日本経年変化協会の会長の徒然日記

『日本のモノ造りは世界トップレベル』一生愛用できる経年変化するアイテムを企画する日本経年変化協会の会長の日記代わりのブログ

これ一般の方に理解できない感覚

オフィシャルのブログで書いたんだけども、お財布の寿命は2~3年と風水上言われている。僕は律儀にきっちり守ってる。自分が大切に使ってきた財布はしまっておくも良し、それか誰か大切な人にプレゼントしても良いらしい。

今年は僕の財布を新しくする年。毎回財布を新しくする際に新しい財布を企画してきたけども、今回素材違いで作り直した。

新作を期待してたスタッフやお客様の中にはがっかりされた方もいらっしゃるはず。
今まではEuro Tackerと言う財布を使っていた。

specialite.shopselect.net

オフィシャルのブログでは言葉かなり選んで書いたが、言葉選ばずそのままで表現すると

一般の方はこんなシンプルな財布でなんでこんな値段高いの?

と思うはず。メチャクチャシンプルなヴィジュアルデザインで税込3万円近い。3万円あればそこそこのブランドやメーカーで手の混んだデザインの財布買えるからね。
実際、僕の友人・知人が購入してくれたけども、そんな表情してた(笑)。
WEBショップや百貨店で購入して頂いたお客様はかなりレザー愛好家の中でも玄人だと思う。

Euro Tackerはトラッカーワレットをベースに企画を行った。アメリカの70年代以降の大型トラックの運転手が愛用していた長財布のことでドル札と領収書を入れるだけの機能だけで財布と言うよりケースと言った方が近い。

このコンセプトを今日の使い勝手も考慮して訴求して作り出したのがEuro Tacker
でも実際に使ってみると、2~3年で手放せない魅力があった。もっと色んな素材で試してみたいと思わせる魅力があったのが事実。

 

シンプルだから素材が活きる

この感覚が一般の方には理解できないだろう。

共感を得やすい表現するなら魚料理で言う『刺し身』が適切な表現。魚料理にも色々ある。焼き魚や煮魚。カルパッチョにアヒージョ、アクアパッツァ『刺し身』は魚を捌いて卸してそのまま提供する料理だ。

『刺し身』で食せる魚は限られる。まず生で食って上手い魚種であることはもちろん、魚の鮮度や旬、そして魚を調理する料理人の技量も重要なファクターとなる。洋食の調理人よりも卓越した技術と魚と言う素材を熟知した寿司職人の方が同じ魚でも旨い『刺し身』を提供するだろう。シンプルな調理ほど料理人の知識・技法と素材の品質が求められる。

シンプルな素材は噛み締めて味が染み渡る

芸能人の食レポの用に口に入れた瞬間に『旨い!!』とはならない。『刺し身』は噛み締めて飲み込んで上質な魚本来の旨さが口に染み渡る。Euro Tackerもシンプルなデザインで使い出した時、企画した本人でありながら正直面白みを感じていなかった。否、魅力に気づいて居なかったと思える。しかし改めて自分が愛用した財布と新品を比べてみた時、上質なレザーの経年変化に見とれた。

f:id:japanaging:20220202003512j:plain

f:id:japanaging:20220202003526j:plain

財布はほぼ毎日手に取る革製品と言える。とりわけ意識することなく、日常的な道具として使い続けた結果、上質なレザー特有の経年変化を生み出した。美しくキツネ色に変色しただけでなく、独特の照り。日々の仕様により生まれた独特の凹凸。汚れや傷ですら味として感じ取られた。

もちろんシンプルなデザインで構造もシンプルであり、日常使いがノンストレスだった。今年が財布を新しくする年であるが、まだ手放したくない想いが強すぎた。そして素材違いで製作して愛用したいと思った。

アニリンレザーと言う選択

素材違いで製作しようと思えど、どの素材で製作しようかと悩んでる時はかなり楽しかった。今回栃木レザーアニリン仕上げのレザーで製作した。

f:id:japanaging:20220202004442j:plain

栃木レザーは日本で一番知名度あるヌメを生み出すタンナーだろう。近年その知名度とともに需要が拡大し、今では様々なレザーを生み出している。タンニンを使ったヌメであってもドラム鞣しまで存在し、一部姫路のタンナーがOEMを行っているほどだ。

今回採用したアニリンレザーはなんと言っても特徴はヌメとは思えない吟面の透明なクリア感のある艶だ。これも顔料を使わず染料で染められているので、傷の多い原皮は使えず、Sランクと呼ばれる極上の北米産ステアハイドを使っている。大きさは250ds前後であり、昔ならなのピット鞣しが施されるため厚みは2.2mm前後となる。

f:id:japanaging:20220202111002j:plain

実際にはこれだけ屈強なレザーはレザーのトランクケースやランドセルと言った箱物の製作に使われることが多い。ランドセルに使われると言うことは自分の小学生時代を思い出してほしい。手入れもせず毎日乱暴に扱って6年間も持つ耐久性がランドセルには求められる。一体どのような経年変化を描いてくれるのか?珍魚の『刺し身』を食べる前のワクワク感に似ている。

この屈強なレザーで小物製作を行う際、製作を行う職人は非常にそのレザーの扱い難さを痛感する。それ故に職人はレザーの特性を熟知しているGum-A-mama Leathers Kobe代表の本田氏に依頼した流れだ。

f:id:japanaging:20220202111555j:plain

f:id:japanaging:20220202111606j:plain

敢えて革の断面の切り目本磨きを行わず裁断した切りっぱなしのままにした。使い続けることでコバも含めて馴染んでくると予測できるからだ。

f:id:japanaging:20220202111719j:plain

f:id:japanaging:20220202111735j:plain

f:id:japanaging:20220202111754j:plain

カードを横向きに並べて収納するのではなく、縦向きに収納することでロングワレットと横の寸法を短くすることにより、お札サイズで製作することにより、コンパクト化することができる。札入2箇所、コインケース1箇所、カードスペース3箇所と財布としての収納力は十分兼ね備えマチを設置することで100万円が収納できる。

極めてシンプルなデザインでありながら、パターンを考え抜いた作品を極上の素材で一流の職人が製作。

この感覚に魅力を感じるのはかなりの玄人さん。

さて、この自己満足の塊と言える財布。これから3年間愛着もって愛用する。