日本経年変化協会の会長の徒然日記

『日本のモノ造りは世界トップレベル』一生愛用できる経年変化するアイテムを企画する日本経年変化協会の会長の日記代わりのブログ

『日本の革』と言うのであれば

日本経年変化協会設立時からずっと考えていた企画がようやく形になった。理論的に考えると当たり前の話だけども、”業界の常識”から外れるし、手間暇かかるから誰も着手しなかったんだろうけどね。

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『日本の革』とか『伝統の日本の革職人』欧米からみたらパクリ


サラリーマン時代に海外出張や転勤があったおかげで、欧米人の知人もいるけど、

「日本の革?日本伝統の革職人?みんな欧米の文化のパクリでしょ?」

と言われる。これは僕の中でずぅ~と引っかかっていた。

日本の革の歴史は文献を紐解いてみても播磨地方(兵庫県姫路市たつの市付近)の皮革産業は平安時代まで遡る。欧米にも負けない歴史のある産業に思えるが、平安時代から明治まで日本は今日とは異なる皮革素材を使っていた。日本は皮革素材を太鼓のような祭事の道具や馬具や鎧甲冑の武具に使用していた。
それに比べ、欧米は昔から皮革素材を靴や鞄のような服飾雑貨に取り入れていたと言うのがパクリと言われる要因である。

タンニン鞣しだって明治以降に欧米かた伝わった技法であり、クロム鞣しに至っては戦後に伝わったものだ。明治時代までの日本は着物の文化で鞄や靴だって存在していなくて”鞄”と言う漢字ですら造語から生まれている。平安時代~明治時代の日本の革は服飾雑貨に向いておらず、明治以降が日本の革の歴史だとすると数世紀に及んで『日本の革』『日本の革職人』は欧米に遅れていることになる。

僕個人の意見としては「日本が海外に誇れるものは海外に存在しなかった鞄であるランドセルぐらい」のもんだと思う。

しかし考えてみて欲しい。かって敗戦国である我が国は、焼け野原からモノ造り一つで経済大国と呼ばれるまでのし上がった。祖父母、父母の世代はカッコ良かったんだと思う。自動車にしろ、電化製品にしろ海外から入ってきたものだ。それを世界的な評価を受けるまでレベルアップしたのか?それは徹底した品質の訴求だと僕は思う。当時の欧米やアジアでは到底真似できない品質の実現こそが日本のモノ造りのアイデンティティだと僕は確信している。

日本の自動車各メーカーや家電メーカーは世界的な知名度を誇っている事が多いが、服飾雑貨の世界で世界的な認知度を誇るブランドがどれほどあるだろうか?この差こそが痛い評価を受ける要因かと思う。

 


加工産業こそが日本のモノ造りの原点だ


日本は昔から島国で、資源も豊富とは言えない。そんな日本は海外から色んな物(資源や文化も)輸入して自国でオリジナルのアレンジを加えて、海外に輸出していく加工産業が原点だと思う。

革の世界で言うと鞣しはタンニン鞣し、クロム鞣しが主流であり、革で製作するのは革小物や鞄、靴、衣類、レザーシートぐらいで至ってシンプルな業界でもあり、そこで『日本らしさ』を訴求するならば、オリジナルのアレンジが不明確では欧米人の理解を得れるはずがないと思う。今回の日本レザーアワード2015において日本皮革産業連合会の考え方はそこが抜け落ちていると僕はつくづく痛感した。

 


脱クロム製法こそが加工産業日本の皮革生成技術の素晴らしさだと思う


僕が約2年前に皮革産業都市姫路で出会った鞣し手法こそが脱クロム製法だった。手法としてはシンプルで一旦クロム鞣しを施してから9割以上のクロムを再度抜き取ってタンニン鞣しを施すレザーの精製方法(鞣し)だ。1割未満のクロムを残すことによってクロムの長所である軽さ、丈夫さを実現し、タンニン鞣しの特徴である革従来の風合いを保つことができるのだ。実際に経年変化に関してはタンニン鞣しと比べてみても遜色ないもので、むしろタンニン鞣しの短所である裂けやすい耐久性が補われた素晴らしいレザーだと思う。しかし欠点が一つある「品質の安定」だ。夏場に精製したものと冬場に精製したものでは品質が異なり、ロットぶれが生じることだ。

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タンク内の温度、タンク内の水温、そして水流などをコンピュータ管理することが求められて、初めて品質が安定する。跡継ぎのあるタンナーで実現した。同時に姫路レザー有限会社とタッグを組んでアルコタンニンレザーたる商標で実用化を試みたが、先方の代表が革の理解に乏しく、僕が想定するようなレザーにはならなかった。姫路レザー有限会社はタンナーではなく、商社として現在在庫の販売を行っている。

僕は理想の素材を求めて、製作のタンナーと直結で製作担当の職人も交え”現場の打ち合わせ”を繰り返し脱クロム製法をより安定かつタンニンの割合を増やしたレザーの開発に成功し、『Pate(パテ)』と名付けてリリースし、自らの企画にも採用することが多い。

specialite.ko-co.jp

海外原皮を輸出したがる業者も実は利のある手法で、現在多くの問い合わせがあり、今後広く採用される手法になりそうで期待している。

当然ながら、過去記事にもあるように

 

japanaging.hatenablog.com

 せっかくの素材でも中国の縫製工場で製作できるレベルであれば職人が生き残るは難しいと思う。縫製工場で出来ないようなパターン・縫製・仕上げこそがこの分野における日本独自のアレンジなんだと思う。そのアレンジ・手間こそが商品の対価だと僕は思う。